二度目の恋
「……で、何でおばさんは分かったの?」
「分かるよ。おばさんは何でも。ガンちゃんの事は……ガンちゃんはおばさんが痩せるため、一生懸命だったんだ。食事だってガンちゃんが用意したんだよ。ガンちゃんが一生懸命になるのって、賭け事ぐらいしかないから。だからおばさんが『おかしい!』って。……でも気づいたのは、昨日の夜中だったんだよ」
「おばさんも鈍感。でもなんで昨日なの?」
「急に閃いたみたいで……」
 ずっと二人の頭上に、家具や食器が飛び散っていた。愁は食器類を避けながら、そっとまた部屋の中を覗いた。
 ガン太と静江は激しさを増すばかりに、いがみ合っていた。ガン太は静江に押されている。その姿を見ながら、愁はまたしゃがんだ。
 「美月」そう呼ぶと、愁はまた美月に軽くキスをした。そして二人はまたそっと部屋を覗き、微笑ましく見、二人も目を見つめ合った。ガン太と静江の争いは終わらず、愁と美月の存在すら気づかず、食器や家具がきりなく窓の外へ投げ出されていた。


 日は暮れていた。夕日が煌びやかに輝いている。
 「愁ちゃんも美月ちゃんも、早く早く!」静江の声だった。家の玄関の戸が開けられ、カメラを持って出てきた。続いて愁と美月も出てきた。三人は浴衣姿だった。「何処がいいかしら~」静江はキョロキョロし「あ、あそこがいいわ」静江は少し歩き、田園の中の道に入った。「早く!二人並んで!山に沈む夕日をバックに撮るわ」田園の真ん中で、村がよく見渡せる。遠く、沈んでいく夕日で、山はシルエットになっていた。二人は並んだ。静江はカメラを覗き、二人の姿に感動した。「凄く綺麗。二人とも似合うわ。私って天才かしら」愁と美月の浴衣を、一日で仕上げた。そのことに静江は、満足で上機嫌だった。「この浴衣も綺麗だわ」自分の浴衣も触ってみた。<なんて、素晴らしい日なんだろう>浴衣の完成度に、大変満足していた。朝の不機嫌さがウソのようだった。
 「はい、愁ちゃんも美月ちゃんも撮るわよ」静江はシャッターを押した。愁は少し緊張気味に肩を窄め、美月は愁に寄り添って、最高の笑顔を見せて写真に写った。これが愁と美月が一緒に写った、たった一枚の写真となった。
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