二度目の恋

第十一章

豪雨だった。夜の十一時を過ぎていた。美月は雨の中懸命に走っている。雨に打たれて、何かに脅えるように。愁の家へ向かっていた。昨日から雨は止むどころか、激しく降り続く。美月は何度も後ろを振り返り、愁の家へ向かった。
 愁の家の明かりは消えていた。美月が愁の家の前に着くと、激しく玄関をノックした。その音は、雨の音に負けないぐらい響いた。
 すると家の明かりがつき、玄関のドアがゆっくりと開かれて、ほんの少しの透き間から愁が顔を出した。愁の目には美月の顔が写った。「何だ、美月か」愁は少しホッとした。こんな時間に人が来ることはなかった。もし玄関のドアが大きく叩かれたらそれは、風の音か、動物の悪戯か、もしくは幽霊が戸を叩いたのか。愁は怖く、恐る恐る玄関のドアを開けていた。寝巻姿のままだ。「た……す……け……て……」美月は愁に助けを求めたが、雨の音で美月の声が聞こえなかった。その行動も、雨に濡れた髪から雫が落ちて顔を隠し、愁に気づかせなかった。美月だと分かると、愁は玄関のドアを全開にした。「どうしたの?こんなに濡れて。タ、タオル持ってくるね。中に入って!ちょ、ちょっと待っててね」愁は慌てた。<どうしたんだ?>分からなかった。何故こんな夜遅く来て、何で雨に濡れているのか。愁はそのまま振り返って、慌ててタオルを取りに行こうとした。美月は家の中に入り、すぐに力つきたように床に倒れ込み、震えた。愁は美月の姿には気が付かなかった。美月は倒れながら、遠ざかる愁の姿を見ている。「た……す……け……て……」その声が微かに聞こえ、愁は振り向くと、美月は床に倒れ込み、震え上がっている。愁は慌てて美月に近づいて、抱き抱えた。「たすけて……ど、どこかに、隠して……わ、わたしを……お、おねがい……」脅えていた。「ど、どうしたの?」抱きながら尋ねると「隠して……」美月の目は、途方もない方向を見ている。「わ、分かった」愁は訳が分からなかった。<何があったんだ……>とにかく美月を抱え込み、担いで玄関を出た。
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