二度目の恋
雨に濡れた。家にいてはいけないと思った。美月を抱えて、物置小屋へ向かった。
 物置小屋の扉が開かれると、暗闇の物置小屋に、光が差しこんだ。光というか雨粒の輝きが光りに感じた。小屋はほとんど暗闇と変わらない。ガラクタばかりで、亨の物しか置いていない。亨の死後、誰もこの小屋に立ち入っていなかった。
 「ここに隠れて!」愁は奥にある小屋の天窓の下に美月を隠した。美月が少し俯き座ると「ちょっと暗いけど、我慢して」愁は言い、美月は顔をあげた。小屋の扉が見える。細狭い扉だ。美月を囲う薄暗い闇から細狭い小屋の扉を見ると、それはまるで異空間の入口のように思えた。愁は扉に向かい走り、小屋を出て扉を閉めた。扉が閉まると、美月の姿も暗闇に埋まった。
 愁は家に戻り、タオルで濡れた体をふいていた。「シュウ?」恵子が叫びながら二階から、寝巻姿で降りてきた。「何か騒がしいけど、何やってんの?」そう言いながら恵子が愁の姿を見ると、体が濡れていることに驚いて「あんた、この大雨に外に出たの?」と言った。「うん、ちょっと何か音がしたから……」愁は言った。「風の音よ」恵子が言うと、また二階に上がって寝ようとした。すると玄関のドアを叩く音がした。その音が聞こえ、恵子は少し振り向いたが<また風だろう……>そう思って二階に上がろうとしたが、ドンドンドン、ドンドンドンまた激しくドアを叩かれる音がして、愁は気になって出ようとした。「待って!」恵子は止めた。愁は恵子を見た。「私が、出るわ」恵子は階段を下り、愁を横切って玄関へ向かった。
 玄関の前で立ち止まった。そしてそっとドアノブを握り、ゆっくり回して開けると、そこには傘をさした男が立っていた。
「夜分遅くにすみません」
 男は言った。
「ああ、はい……」
 湿気た返事をした。
「私、隣に越してきた倉岡直也と申します」
「あ、あー」
 <この人が!>恵子は驚いて声にならなかった。倉岡直也は、爽やかな笑顔で挨拶した。
「ご挨拶をしなければいけないと思いながらも、部屋の片付けや仕事が忙しくてなかなか挨拶にも伺えず、大変失礼致しました」
「あ、全然気にしなくてもいいんですよ。それよりうちの息子がいつもお宅のお嬢さん、美月ちゃんにお世話になってるみたいで……」
 その言葉に、倉岡直也の顔が鋭くなったように思えた。
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