早く気づけ、バカ。


「絹…?」



「しょーちゃん…。」




ぎゅっと腕に力を込めた。



「俺が赤坂のことなんか、思い出させへんようにさせたる。

 忘れさせるから。」





しょーちゃんの気持ちが

痛いほどに腕から伝わる。






「絹はなにも考えんで、俺に任せておけばいいから。」





ひゅうっと強い風が吹く。





「俺にせぇや……。」





ぽつり、しょーちゃんがつぶやいた。




「でも私、まだ智治のこと好きなまんまだよ…?」



「それでもええ。」



「たくさんしょーちゃんのこと傷つけちゃうよ?」



「絹から傷つけられるならそれでもいいかな。」







「こんな私で、いいの…?」






こんな未練たらたらな私でいいのか。


智治を好きなままの


最低な女で





「しょーちゃんは、いいの…?」






瞬間私の体が反転して



しょーちゃんに前から抱きしめられる。







「俺は、絹がええんよ。」






顔を上げれば、しょーちゃんがふっと笑った。







「しょーちゃん。」




「ん?」







「私のこと、幸せにしてね…。」








幸せにして。





最低の女の私は




幸せだけを望んだ。




たくさんの人を傷つけているのにも気づけずに




幸せを



幸せだけを貪欲に求めたんだ。
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