Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「ケインは、まだ怒っているの?」

 ジョーンの質問に、ケインが顔を枕から離した。身体の位置をずらして、ジョーンの顔を覗きこんだ。不思議そうな表情をしていた。

「私がレティアを殺したと知っているのでしょ?」

 ケインが微笑んで首を横に振った。

「僕は最初から怒っていません」

「嘘よ。ケインは怒っていたわ」

 ジョーンは上半身を起こすと、ケインの右腕を軽く叩いた。前がはだけたガウンを直すと、腰紐を結んだ。

「僕はクライシス伯爵夫人を殺した件について怒りを感じたのでありません。ダグラスに暗殺を頼んだことに対して、怒りを覚えたのです」

 ケインも身体を起こして、ジョーンと向き合うようにベッドの上に座った。目つきが険しくなり、ケインの表情が硬くなっていった。

 赤い掛け布団が、二人の足の上で皺を寄せて固まった。

「ほら、ケインは怒ってたじゃない」

「陛下はダグラスという男を知りません」

 ジョーンは、むっとして頬を膨らませた。

(私だって知っているわ)

「もっと警戒してください。ダグラスには忠誠心や王妃への愛情はなく、私利私欲でしか行動しない男です。何か企みがあって、陛下のお傍にいるのだと」

「私もきちんとわかっています」

 ケインの言葉を遮って叫んだ。

(企みがなきゃ、誰も王妃の傍になんか寄って来ないわ)
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