Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「優秀な人材を失うのは非常に残念だが、ウイリアムの処刑が決まった」

 ゼクスの言葉に、ウイリアムがベアトリクスから手を離した。髪の間から見えた顔が、悲痛な表情をしていた。

 十九歳となったウイリアムは、すっかり大人になっていた。身長も伸びたし、顔も父親のダグラスに似てきた。

「父上が何かしたのですか?」

 声変わりをし、ウイリアムの声のトーンが低くなっていた。

 ウイリアムには驚いた様子もない。顔を隠している髪を耳にかけると、ケインの顔をまっすぐに見つめた。

 ある程度の予想はついていたのだろうか。塔内にいれば、考える時間は山ほどあるだろうから。

「スコットランド王国の王は自分だとダグラスが名乗り、ダグラス城で自分勝手に政策を打ち出している。これは由々しき問題だ」

 ケインは静かな声で説明をした。
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