Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「もちろん、協力します」

 ウイリアムの返事に、ゼクスが満足そうに頷いた。ケインもウイリアムに微笑んだ。

 取引は終了した。ケインはウイリアムに背を向けて歩き始めた。環境の悪い塔内に長くいるつもりは、ケインにはなかった。

「では、成功するまで、ベアトリクスを預かる」

 ケインの背後ではゼクスの声が聞こえた。ベアトリクスの悲鳴や文句も聞こえてきた。ウイリアムの代わりにベアトリクスが怒っているのだろうか。

 ケインはウイリアムの落ち着いた態度が気になった。六年も牢獄にいたから、性格がすっかり変わってしまったのだろうか。それとも何か考えがあるのだろうか。

 やっと牢から出られるかも知れないとわかったら、大喜びするものではないのか。

 ダグラス家の後継者になれ、婚約者と結婚もできる。最悪な環境から抜け出せるのだ。もっと感情が表に出てきても良い気がするが。

 ケインの考えすぎだろうか。後ろで騒ぐベアトリクスの声で、纏まりそうな考えも纏まらなかった。
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