Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 望み以上の報酬を提供しても、マイケルなら心動かされないだろう。憎しみのほうが勝っている。ケインたちを恨んでいるのが、ひしひしと肌で感じた。

 それでもマイケルの心を動かさなくてはいけないのだ。ハイランド貴族を、国王軍の味方にして、戦を有利な方向へと導きたい。

「確かに、生まれはイングランドでした。十七歳までイングランドで生活し、太后陛下の供として、スコットランドに来ました。それでも僕は、スコットランドで過ごしてきた時間のほうが明らかに長い。スコットランド人とは言われないまでも、スコットランドの生活なら身にしみています」

「たった二年の差でしょう? 貴殿は今、三十六歳だ。十七歳までイングランドにいたのなら、スコットランドには十九年間しか生活していない。明らかに長いとは言い切れない」

(イングランドの人間が親戚にいるくらいスコットランド人にも大勢いるだろうが)

 ケインはマイケルに返す言葉がなくなって焦った。怒りを表に出しては、交渉がうまくいかなくなる。

 顔に苛立ちを出さぬように気をつけながら、ケインは次の言葉を探した。

 イングランドに毒されず……なんて言わなければ良かったとケインは後悔をした。

 ジェイムズⅠ世とⅡ世の差を出したくて言った言葉だった。もっと慎重に言葉を選べばよかった。

 ケインは口を閉じたまま、優越感に浸っているマイケルの顔を見つめた。

 どうすれば目の前に座っている二人の心を動かせるのだろうか。
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