Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 何年もケインと一緒にいてわかった。ケインは、ジョーンの笑顔を守るためなら、どんな苦労も厭わない。騎士の鏡だ。

「ベアトリクスやマー伯トマスの家臣と話をして、イングランドで生まれ育った過去が息苦しくなっただけです。スコットランド出身であったならば、交渉や世渡りに苦労はしなかったのか? と疑問に感じてしまって。ただの私の我儘です」

 ケインが小さな声で心の内を告白してきた。ケインが傷付いている。ジョーンはまたケインの手を握った。

 ベアトリクスも傷ついた。同じように、ケインだって心を痛めていた。ジョーンはケインの気持ちを思うと、心が締め付けられた。

 ジェイムズⅠ世は心を痛めるような人ではなかった。己の言動が正義だと言わんばかりに、多くの人びとを殺してきた。そんな人間なんかより、ケインが劣るはずがない。

 肩書きや外見だけで、中身を見ようとしない相手にケインが傷つく必要なんかない。ジョーンは、ケインの隣に腰をつけると、腕に絡みついた。

「出身なんて関係ないわ。ケインは素晴らしい人間よ」

「ジョーンなら、そう言うと思った」

 ケインが肩を震わせて笑いだした。パースから帰ってきて、初めて心から笑ったケインの笑顔を見られた。ジョーンの気持ちも少しずつ軽くなっていった。
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