Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 きっと真っ赤な顔をしているのだろう。ジョーンの肌を見ただけで、こんなに上気してしまうなんて、恥ずかしかった。

 できることなら、今すぐジョーンを抱きしめ、優しく髪を撫でて、傷付いたジョーンを癒してあげたい。ケインとジョーンが夫婦だったら、それも叶うだろう。

 現実は違う。ジョーンはスコットランドの王妃で、ケインは王妃直属の騎士。ケインの邪な気持ちは於さえ、隠さなければいけない。精神的な結びつきはあっても、肉体的に結びついてはいけない。

 ジョーンに惜しみない愛情を注いでも、ジョーンからの愛を求めてはいけない。

 冷静に振舞おうと、ケインは心に言い聞かせた。

 ケインの視線は上がり、ジョーンと見詰め合った。頬に力を入れ、奥歯を噛みしめて、ケインは必死に気持ちを押さえ込んでいた。

「話したくない事柄を、無理に聞くべきではないと思っています。王妃陛下が話したいと思っておられるのなら、話して心が楽になるのなら、僕はいつでも、どんなときでも、王妃陛下のお話をお聞きしたい」

「抱いてって言ったら、ケインは私を抱いてくれる?」

 ケインの心臓が跳ね上がった。頭の中まで心臓の激しい鼓動が響いてくる。ジョーンの言葉が、脳裏でリピートされては、ケインの身体を熱くさせた。
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