Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
 ジョーンは芝生に落ちていた矢を思い出してみた。狙われたのは、ジョーンだ。

 剣で弾く前の角度で考えると、ジョーンの心臓を狙っていた。

 ケインが気づかなかったら、今頃どうなっていたのだろうか。矢の角度が違ったら。ケインが剣で矢を弾けていなかったら。

 ジョーンの胸に矢が刺さっていたかもしれない。

 胸ではなくても、身体のどこかに刺さっていたかもしれない。芝生中、血だらけになってケインの腕の中で苦しんでいたかもしれない。

 もしかしたら、ケインに刺さっていた可能性もある。

 ケインが血を流しながら、必死に犯人を探そうと馬に乗っていたかもしれない。気力だけで立ち上がり、無理したために、命を落としてしまったかもしれない。

 ジョーンの脳裏には、悪い事柄が次から次へと思いついては消えていき、恐怖を倍増させた。

 ケインが手綱を引っ張り、馬の脚を止めた。馬が走るのを止めると、足踏みをしながら、半回転した。

「陛下、城へ戻りましょう」

 ケインが、震えていたジョーンの身体を強く抱きしめてくれた。身体の震えが、ケインの腕の中で少しずつ治まっていく。
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