Mezza Voce Storia d'Aore-愛の物語を囁いて-
「息子を受け入れてくれた王妃陛下の寛大なお心に感謝します」

 ダグラスがジョーンの目を見つめて口を開いた。嫌味っぽく聞こえてくるのは、ジョーンだけだろうか。

(寛大だなんて、露ほどにも思ってもないくせに)

 ジョーンの視線はケインの横顔に向いた。背筋を伸ばし、手を後ろで組んでいた。顔は左の窓を見つめていた。

 いつもならジョーンの顔を見ていてくれるのに。今日は、視線を逸らしていた。

「できれば、陛下と二人きりでお話をしたいのですが」

 ダグラスが上目遣いで見ているのが、ジョーンの視界の端で捉えていた。ケインの身体が、びくんと動くなり、眼球が動いた。

 ケインが見たものは、ジョーンではなくダグラスの顔だったようだ。ジョーンとは視線が全く合わなかった。

「ダグラス、陛下に対し、失礼ではありませんか?」

 ケインの声が低かった。

「良いでしょう。ケインたちは少し下がっていて頂戴」

 ジョーンはケインに向かって声を発した。ケインがお辞儀をすると、大股でドアに向かって歩き出した。ウイリアムも頭を下げると、ケインの後ろを従いていった。

 ケインとウイリアムが廊下に出ると、エレノアとローラが同時にお辞儀をした。二人が部屋を出ると、静かに扉が閉められた。
< 96 / 266 >

この作品をシェア

pagetop