空色の瞳にキスを。
トキワの目の前まで来たナナセは、魔力によって淡く光る空色の瞳を彼に向けたまま動かない。

何をするでもなく、棒立ちで悲しそうな狩人で彼を見下ろす。

夜の闇に溶けたその顔は見えないけれど、トキワはその雰囲気を感じ取る。

上から銀の王女の泣きそうな空気がすると、黒髪の狩人は思った。


「ナ…ナセ…。」

ひどく乾いた重たい口を小さく開いて、ルグィンは掠れた声を溢した。

ナナセはその声に反応してルグィンの方を向いた。

そしてゆっくりと口を開いた。

「スズランは、今危ないよね。」

さっき音が聞こえたの、と付け足してルグィンを見据える。

笑わず固い表情のナナセは感情を封じ込めているようにルグィンには映った。

「そう。今、多分…」

どたどた、と大人一人分の慌てた足音が部屋に入ってきた。


「ナナセちゃん!」

表向きの仮面を被ったサシガネが、焦ったような声でナナセに呼び掛ける。

「サシガネさん。」

ルグィンの後ろに出てきたもうひとりに少し瞳を丸くして、でも静かに言葉を返すナナセ。


また、何も誰も言葉を発さない。

沈黙に痺れを切らした闇に溶けた金髪の狩人が、いきなり核心に迫る。


「なぁ、俺らと行こう?
トキワを放して、俺らと逃げよう?」

驚愕の台詞を吐いたサシガネに、ルグィンの中の言葉が消え去る。

俺らと逃げよう、なんて。


─なに言ってるんだ。

騙していたのは、そっちなのに。

ルグィンは頭の中が真っ白になる。

ナナセは反論もせず、何も言わない。

ただ、話し手を真っ直ぐに見つめる。

闇の中でもまわりがよく見えるように魔術を自分にかけているナナセと、異形である故に夜目が利くルグィン。

常人には闇の中は彼らほど鮮やかに見えない。


はっきりと彼女のその瞳を見たルグィンはどうしてか何も言えなくなる。


何も言わないのに、なにかを秘めたその瞳が見える気がして、サシガネはすべて見透かされたような気分に陥る。

それでも、ナナセを手に入れようと誘う。

< 126 / 331 >

この作品をシェア

pagetop