空色の瞳にキスを。
「さあ、行くか。」

「あ、待って。」

話を切り上げようとしたルグィンは、彼女の答えが予想外で振り向いた。

一瞬だけ合った空色の瞳は、伏せられる。

そして風が吹いたように、俯いた彼女の銀髪がふわりと浮いた。



目を閉じた彼女の銀は二人が見ている前で色を変えてゆく。


毛先から黒く染まり、白銀が闇色に侵食されていく。


銀色の髪全てが漆黒の色に包まれたとき、彼女は目を開けた。



いつも淡いスカイブルーが覗く瞳の色も、今はもう髪と同じ漆黒。

髪の長さはそのままに、魔術で彼女はがらりと容姿を変えた。

「この黒髪、ルグィンに似てるでしょう?」

照れ臭そうに笑う、ナナセを見てルグィンが目を見開いて固まる。


その反応に、どうしていいか分からなくてナナセも固まる。


気まずい沈黙が流れる隙も与えずに、スズランが笑いだした。


「あはは!二人、兄弟みたいよね!」


二人の反応なんて気にしないように、スズランが続ける。


「ナナセ、この姿の偽名は?」


スズランの勢いに押されながら、ナナセは答える。


「ファイ。」

彼女はふわりと笑う。


「だったら、シュン・ファイよね!」

そういってまた笑ったスズランに、ナナセも小さく笑う。


「じゃあ、ルグィンはあたしのお兄さんね。」

そう言ったナナセが黒猫に笑いかけて、彼はまた固まる。


ルグィンが助けを求めるように視線を泳がせれば、いたずらっ子のような獅子の少女の視線とぶつかる。


ぎり、と歯軋りをして感情を押さえつけた黒髪の少年は、また柵へと歩き出す。

「行くぞ。」


小さな怒りの感情が、その声に込もっていてそんな感情の起伏にスズランは口元が緩む。

弟のようなこの少年は、この数週間で今までに無いものを得たんだな、と改めて実感する。



三人が柵まで辿り着くと、柵に飛び乗り旅立つ二人がもう一度振り返る。

黒髪の少女が瞳に強い光を宿して、獅子の少女に向かって強気に笑いかける。

「…行ってきます。」

そう言うと、二人は空中に飛び上がった。


巻き起こった風圧が、スズランの栗色の髪を巻き上げる。

遠くなる二人の姿を追うように、声を送る。


「行ってらっしゃい!」


笑って二人の姿を追う獅子の少女は、晴れやかな顔をしていた。

彼女の声を遠くに聞いたナナセとルグィンが、屋敷を振り返れば大きく手を振る彼女が見えて、二人空中で手を振り返した。



そんな姿が青く高い冬の空に消えてゆくと、スズランは右手を下ろして妹達を呼ぶ。

「ロロ、ララ。」



「なぁに、お姉さま。」


するり、と床から抜け出してきた双子に、姉は驚くことなく告げる。

「狩人をあの部屋へ。」


「また拷問をされるの?」


金の瞳のロロがうんざりした口調で言う。


「あれはちょっとした情報収集って言うものよ。」


無邪気な風にクスリと笑った獅子の少女は、いつになく闇の色をしていて。

彼女は闇に足を踏み入れた者の顔。


「スズ姉さまの情報収集は耐え切れた男がいないじゃないの。

酷いったらありゃしないわ。

準備しておくから、15分待ってくださいね。」

そう言うと、銀の瞳のララは床へ沈んでいった。


「お姉さま、あまり首狩りの使用人を増やさないでくださいよ?

躾が大変なんですから。」

ロロはそう言うと妹を追ってするりと床へと消えた。

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