空色の瞳にキスを。
荷物を床に置く手を止めて、声のした入り口の方をファイは振り返る。

閉めた扉に寄りかかってこちらをまっすぐに見てくる金の瞳。


「首狩りのこと…?」


「あぁ。

正直、ここでバレるとは思ってなかった。


いつかお前が俺を信じてくれたら言おうと思ってた。」


そんな言葉を金の瞳を伏せて紡ぐから、ナナセの心が溢れ出す。


今はルグィンのことを信用していないような、そんな言葉は、ナナセの心を揺さぶって。


ファイの黒い瞳に青が混じり、切ない色を帯びていく。

「信じてる…!

もう、そんなことでは揺らがないくらいに信じているから…!」


身を切るような悲しい声がルグィンの耳を突き抜ける。

言葉が自分の耳に返ってきて、やっとファイは自分が何を言ったか気付く。

頭で考えるより先に出てきた言葉は、言った本人も言われた人も赤面させる。


気まずい沈黙を破って、ルグィンは口を開いた。

「…ナ…んっ!」


「今はその名は呼ばないで。

聞かれているかも知れないから。」

すぐに警戒の色を示して、ファイはルグィンの口に手を当てて塞ぐ。


黒髪の彼女は少年の口を塞いだ手を外そうとしないから、必然的に二人の距離は近くなる。

切ないようなそんな香りがファイの鼻をくすぐる。

黒い瞳は彼を見上げて金の瞳と交われば、どちらからともなく視線を外す。


ファイであるナナセは俯いたまま彼女の心をぼろぼろと紡ぐ。

少女の小さく肩と手が震えていて。

「信じてるから…だからお願い…隠さないでよ…。」

切なくて壊れそうな声音が、黒猫の心を締め付ける。


震えたファイの手が大きな手にそっと包み込まれていく。

手を外して、彼はゆっくりと口を開く。

「…悪かった…。」

そんな低い声が頭上から聞こえて、ファイが顔をあげれば微かな笑みが黒い瞳に映り込む。

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