空色の瞳にキスを。
「ここのおすすめはこいつだな~。

この肉、美味しいんだぜ?」

宿の食堂のテーブルのひとつを三人で囲んで食事をとる。

専ら喋っているのはナコ。

口数の少ない二人は聞き役に回る。

人気の多い宿の食堂では、ルグィンやナコはフードを目深に被っている。

「しっかり食べないと動けないぜ?

2時間後には出発だからな。」
楽しそうに笑ったかと思えば突然に真剣な眼差しに切り替わる。


「あぁ。」
「うん。」

二人の短い返事が返ってくる。


そんな切り替わりの激しい会話を楽しんでいると、椅子の軋む音と共にルグィンが立ち上がる。

「俺、ちょっと抜けるぞ。」


不思議そうな顔をして少女が黒猫を見上げれば、一言だけ返ってきた。

「あ、うん。」



歩いていく姿を見送って、ファイとナコの二人で食事を続ける。


今まで喋り続けていたナコが大人しくなったことに疑問を感じながら、ファイは目の前のスープに視線を落とした。


「なぁ、ファイ。」

ナコは食べる手を止め、肘をつきファイを見詰めてくる。


その視線にファイもスプーンが止まる。

「はい。」


数十秒の沈黙のあと、ナコはこう切り出した。



「ファイはルグィンのこと、好きか?」

ナコの突然の問いに、ファイはキョトンとしながら答えた。

「好きですよ。大好き。」


何の躊躇いもなく発せられた少女の言葉は、自分が望んだ答えと違うことにナコはすぐに気付く。

「その答えは、恋情じゃないね。

家族や親友への思いだろ?」


─だって彼女の瞳は、恋には燃えていないから。

「そうです。」

あっさりと少女は認める。

「そうか。」

その答えが簡単すぎて、肩透かしを食らったような気分で、次の言葉を探す。


「じゃあなぜ、ここに付いてきた?

用事があるのはルグィンの方だろう?」



「…それは。」


言い淀む。

本当のことは言えなくて。


用事があるのはあたしの方で、協力してくれてるなんて言えなくて。


ファイは自分の中の模範回答を探す。

「それはあたしも魔術師だから。
単に気になっただけよ。

…そんな答えじゃ、連れていってはくれないの?」

黒い瞳が赤い瞳を不安そうに見詰める。


「いや、魔術師なら心強いね。

今から入る施設のなかには魔術に狂った人もいるからね。

あんたが足手纏いになるなら置いていこうかと思ったけど、魔術師なら連れていっても良さそうだ。

むしろ俺たちを助けてくれるかもな。」


ナコが笑って言うと、ちょうどルグィンが帰ってきて、ナコの話題も転換した。

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