空色の瞳にキスを。
ぐるぐると一人頭の中で考えていた思いと未来の話をアズキは口に出す。


ふわりと揺れる前髪に先を見通す赤い瞳が見え隠れする。

真っ暗な中でも怪しく光るその瞳は禍々しさを隠せない。


「この先までずっと私がここにいれば、ナナセと敵になるの。

それでね、私は先見の神官として、トーヤは軍の人として、今のルイの国に従事することになるの。


私達は先までずーっとナナセを釣る餌にされ続けて、私達は脅されて生きるためにルイの国に従うの。」

闇を見上げて唄うように言うアズキに、トーヤが嫌だと言う掠れ声が聞こえた気がした。



「だけど、今から起こるはずの何かでここを出ていければ、ナナセの敵にはならないの。」


暗闇の中で聞こえたアズキの声にほ、と安堵したようなため息がトーヤの口から零れ出る。



この言葉を、アズキはどんな思いで自分に告げているのだろうかとトーヤは思う。


─自分と同じように後者を選択したくて呟いているのだと嬉しい。


「多分、今からナナセが来るはずなの。」


身動ぎと息を飲む音とがアズキが次の言葉を継ぐ間に入った。



「それがきっと、運命の分岐点。」


小さな頃からいつも一緒にいたアズキのこんなに冷ややかな声音を、初めてトーヤは聞いたのだった。


かつん。

かつん。


足音を忍ばせた、巡回ではない静かな足音。


「…きたっ…。」

二人で同じことを呟く。

近づく足音に気持ちがはやる。

廊下の足音がゆっくりと止まった。

すると鍵が外れる音がして、ゆっくりと扉が開かれる。

雲隠れした月の微かな明かりのなかで、少女はひとつ違いの少女をその目で捉える。


床に座り込む茶髪の少女は空色の瞳の少女を。

扉を開けた黒髪の少女は片目を隠した茶色い瞳の少女を。


トーヤは突然の見知らぬ人物に固まり、警戒心を露(あらわ)にしている。


黒髪の少女が小さく口を開いた。

「…アズキ…?」

部屋の入り口で突っ立っている軍服の少女は、アズキは見覚えがなかった。


だけど夢で視たあの黒猫が後ろにいて。

彼女ではなかったのに、聞こえたのはあの親友の声。


「…え…?」


暗闇の中で魔力をかき集めて凝視してみると、姿は違えど面影がある。


悲しそうに笑う顔があの子を演じていた頃と、ハルカと同じ。


「…もしかして…トーヤ…?」

悲しそうに、辛そうに尋ねるその声でアズキは確信した。


─他人の心配ばっかりして、泣きそうになる、私の親友。

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