空色の瞳にキスを。
狂ったように叫び出した先見の少女は、目の前にいる警備隊を通して別のものを見る。

現実では誰も血に濡れていない。


けれど、アズキの見ている世界では目の前の軍人たちが赤く染まり、倒れていく。


―やだ…!


先見の力の宿るこの左目は、自分の意思とは関係なく未来を見せてくる。

傷付くのも傷付かれるのも嫌なのに、拒むことができないこの力が見せてくる未来は赤色。


「嫌、見せないでよ!

お願いだから、やめてぇ…。」

茶と赤の瞳に涙がたまっていることが分からなくても、苦しんでいるのは彼女の声で分かる。


黒猫に抱かれて荒い息を吐く少女は心を揺さぶられる声を聞いて、抱かれた腕をほどこうと必死になる。


「ちょ、おまっ、何する!」

「アズキ…!」

じたばたともがく少女をアズキの近くで下ろしてやる。

自分もふらふらだと言うのに黒猫の大きな帽子を目深に被った少女はふらつく足をアズキの方へと向ける。


「おい、アズキに触れるなよ!

触れたらアズキがもっと…」

それ以上は、トーヤの口からは言えなかった。


今も叫び、涙を浮かべる彼女にふらふらと覚束ない足取りの少女がそうっと触れる。

「アズキ…大丈夫、だいじょうぶ…。」


ゆっくりと、彼女の首に腕を回す。


彼女の悲痛な叫びが、止んだ。


魔力の制限されない場所では彼女の先見の力は強すぎる。

何かが起こる人の未来は見たくなくても見えてしまう。

近くにいる人の未来は、特に鮮明に。


警備員と自分との距離は十数歩あるはずなのに、それでもこの目は血を見せた。


―なのに、なのに。


触れるほど近くにいて抱き締めるこの少女の未来は、見えない。

回想のような映像が赤の目を通して見えることも、ない。


それはどうしてか不思議でならなかったけど。


血を見る怖さから解放された。

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