空色の瞳にキスを。
徐々に先見の彼女は落ち着いていく。

「…アズキ…。」

叫び声を出していた口を静かに閉じて、自分の左頬をかすめる革の帽子に気付く。


「…ふっ…。」


「大丈夫、でも泣くのは早いよ、ここを抜けてからね。」

小さな泣き声をあげたアズキに、ナナセが強い空色の瞳を返す。

その真剣さに、アズキの涙が引っ込む。

そしてこくりと頷いた。

小さく震えるアズキの手に、ナナセは手を重ねるとじんわりと伝わる温かみが更に心を落ち着かせる。

「大丈夫?」

魔術の光に照らされた空色の双眸が、大きな黒猫の帽子から心配そうに覗く。

「うん、ありがとう…助かった。

あなたに触れてると何も視えないの。

不思議…。」

ぎゅ、とナナセの手を握る震えた手。


弱々しい声にナナセは微笑みを返して、そしてまた問う。


「…ねぇ、二人は魔術使えるよね。」

バラバラと近付いてくる男達の足音と掛け声。


「狙え狙え!

敵は黒猫だ、気を抜くな!」
「はっ!」

部下に命令を下す声を聞きながら、二人は彼女の魔術を使えるかという問いに首を縦に振る。


「じゃあ、二人でバリアを作って、防御だけしていてくれる?」

ナナセの頼みに、二人は目を丸くする。

そんな二人を見ることなく、銀を隠した少女は一人前線で敵を倒す黒猫を見遣る。


「あたし、ルグィン一人であんな人数、心配なの。」


光に淡く照らされた空の瞳は真っ直ぐで。


「じゃあ、俺も戦う…!

俺の魔術は…」

「攻撃魔術、でしょう?

…だからこそ、アズキの側にいて欲しいの。」

二つの真剣な瞳が、トーヤにこれ以上の反論を許さない。


「アズキは魔力を消費していた方が先見の力は使えないはずよ。

あたしがいなくても平気なはず。

二人が思うよりもきっと、あたしは強い方よ。

心配しないで、殺されたりなんかしないわ。

この人達を倒して、ここを抜けるわ。」

台詞に似合わない柔らかな笑顔。

言い慣れているようにすらすらの台詞を紡ぐ彼女がやけに彼女らしくて、トーヤは安心し、アズキのいる右を向いた。



「アズキ…。」

「うん。」

─詠唱なんてしなくとも、念ずれば答えてくれる。


それくらいの魔力を持ち合わせた彼らは、向かい合い手を重ねて呼吸を合わせる。

「応えて、私の魔力…。」
「使わせて、俺の力…。」


「防御魔法…。」

重ねたアズキとトーヤの手の間から、暖かい魔術の色が漏れ出した。



それを見て、ナナセは駆け出す。


一人で戦う彼のもとへ。

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