空色の瞳にキスを。
「…へぇ、こいつのこと庇うんだ。

…なぁ、こいつ誰だよ、知ってるんだろ?」

いやに冷めた声の主は、今日知り合ったばかりの黒猫の古き友人。


「…分かってるんだろ、こいつの正体。」

そう返すルグィンが少女を守るように回した大きな手は、緊張や警戒で強張る。


ぎゅう、とルグィンに抱き寄せられ密着させられている少女は苦しさはあるが嫌悪感は覚えない。


だけど、かろうじて見えた頭上のルグィンの顔が厳しくナコを見詰めているから、少女は悟った。



─あたしの正体が分かっているのね。

─あんなに倒したがっていた王女を友人が守っているなんて、信じがたいのね。



細い針でちくんと刺されているように、ナナセの胸はじくじくと痛む。


悲しみは慣れることができない。



抱き締める少年と、抵抗しないで腕を回されている少女をナコは視界に映す。

自分の前で寄り添う二人の姿に目の前が真っ赤になる錯覚に陥った。

─あれだけ不幸な人生を送ってきた親友が、どうして罪人と共にいる。



どうして国一番の賞金首と、ともに。

ルグィンの幸せを思って怒るナコの表情を知っていて、ルグィンは抑揚のない声を返す。

「だから、どうした。」


「…は?」


ナコの思考が一瞬止まる。

「だから、どうしたんだよ。」


もう一度口を開いて同じことを繰り返すから、聞き違いでないと感じたナコは黒猫に詰め寄りひとつ舌打ちをして睨み付ける。


「悪魔にでも魂を売ったのかよ…!

ルグィン、目を覚ませよ!

賞金首だぞ!

親殺しの王女だぞ!」


その怒鳴り声は聞き覚えのある赤狐の声ではなくて、いつまでたっても聞き慣れない憎しみの込もった声。

黒髪の少年が片手で肩を、もう一方で帽子ごと少女の頭を押さえている。

だから、少女は少年の胸に押し付けられたまま、赤髪の男を見ることはできない。

それでも伝わる憎しみは、ナナセの心を崩して、涙を溜めるには十分だった。



ナコに自分の真相を話したって、きっと信じてもらえない。

きっと聡い彼には何を言っても作り話だと笑われてしまう。

聞き慣れた、話し終えた時の罵倒の言葉はもう聞きたくないのだ。

赤髪の彼の性格は、昼間の言動で分かっていたことだった。

誇りを持って、今の国に従っていて、賞金首は罪人だと考えている。




微かに、ほんのかすかに。


だけど徐々に明らかになり始めた友人同士の決別。

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