空色の瞳にキスを。
王女に何を言うわけでもなかった。

だけど彼が声をかけようとしたのは、賞金首ではなくて黒猫の親友として。


─そんなことは、あってはならない。


激しい後悔に襲われつつも、言ってしまう前に気づいてよかった、とほっとする。


自分を落ち着けるためにひとつナコはため息をついた。


赤狐の彼は、目の前の少女に攻撃されてもいいように構えは崩さない。



警戒の色を隠さないナコを見て、目の前の賞金首は切なく悲しく笑った。


泣きそうともとれる、小さく淡い、そんな微笑み。

ちょっとだけ、ちょっとだけ。

ほんの一瞬ナコに見えた王女の儚い笑みは、悲しさの色が濃くて。

「今日の夕方は、ありがとう。

楽しかったよ。」


こんなに表情豊かな純粋な人が、親を殺した賞金首なんだと、ナコは心の隅で思った。




次の瞬間、夜目が利くナコたちには度を過ぎるほどに鮮やかな銀髪が目の前から消え失せる。


敵が気付くほど大きな声で、少女は名を呼ぶ。

「アズキ!トーヤ!」


「…ナナセ!」


呼び声にアズキたちが魔術を解き、王女に駆け寄る。

「逃げるよ。」

ナナセはアズキの手を取って、敵の中を走り抜ける。


気を失った後だからか、1拍子遅れて軍人たちが追って来る。

ナコの横をすり抜けて廊下を突き進んで窓を目指す。

「…」

ナコは彼女を追わない。

ルグィンと向かい合ったままだ。

王女が追われる人の数を見て自分も走り出した黒猫に、ナコが声を送る。


「今回はお前に免じて追わないでいてやる!

次会うときは覚悟しておけ!」

そう叫ぶと、声はなくとも黒猫の右手が軽く上がった。


それを見て、満足する。



なぜ逃がしたかは分からない。


─思ったよりあの罪人が純粋な人だったからかもしれない。

─あのルグィンが心を預けていたからかもしれない。

─親友だと聞いていた囚人たちを助けに来るほどのお人好しだったからかも知れない。



誰もが彼女たちを追って窓まで駆けていくのに、一人棒立ちしてナコは追わないでいた。

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