空色の瞳にキスを。
皆が子供の帰還に大喜びし、朝食の用意のためや家の中の祖母に会いにそれぞれが消えた庭。
玄関先の二つある大きな石に並んで腰掛け、なにを言うわけでもなく静かに冬の住宅街を眺める。
ここは家の密集地。
明け方になるとさすがに人が起き出してきた。
カルヤの隣に座る見知らぬ若者をちらりと見て、みなそれぞれの日課を始める。
ぼんやりとそれを見ていると、トーヤにカルヤが尋ねる。
「元気そうだな、辛くないか?」
普段ものをあまり言わない父の声は、朝の清浄な空気に染みていく。
職人の大きな手が彼の膝の上で組まれているのをなんとなく眺めながら、トーヤは答える。
「うん、平気。」
朝の町の微かなざわめきは静かすぎず。
昂ったトーヤの心を落ち着けるにはちょうど良かった。
この何時間かに急に事態が変わりすぎて混乱した心も、ゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
「改造でまだ慣れていないところがたくさんあって、時々しんどいけど、平気。」
目は合わせないが、ぼんやりと前を向く息子の瞳に濁りがない。
ひどく大人びた穏やかな笑みを浮かべた子供を見つめて、カルヤはふ、吐息をつく。
「そうか、ならよかった。」
それきり会話は続かない。
滅多に二人だけで会話をすることはなかったからなにを話すればいいのか、迷う。
「…お前、そういえばあの女の子はいいのか?
黒猫と手なんか繋いでいたぞ?」
「…は?」
長いようで短い沈黙のあと、突然の父の言葉はこれだった。
誰が聞いているか分からないこの場所の事情により、名前は伏せてある。
けれどファイでありハルカであるナナセのことを言っているのだと、トーヤはすぐに理解した。
焦るトーヤに、カルヤがとどめの一発をお見舞いする。
「知らないとでも?
お前が家で話すのは、アズキと学校の男友達のことばかりだったのに…あの子が来てからはあの子の話が物凄く増えてな。
それはそういうことだと、俺は踏んでいたのさ。」
自分のことを得意気に話す父親に、恥ずかしくなってどうしてか笑えた。
トーヤはくすりと笑って、するりと口から次の言葉を紡ぐ。
「父さん、俺失恋した。」
トーヤのあっさり過ぎる答えに、カルヤは一瞬目を丸くする。
その父の顔を見て薄く笑った少年は、いい言葉を探す。
「…ちょっと違うかな。
多分俺は、ハルカが好きだった。
今のあの子は、アズキと同じ『好き』だ。」
「そうか。」
「うん。」
あっさりと返されて、トーヤはなぜか安心した。
こういうときに、誰かに説教がましく言われて慰められるのは嫌いだから。
いつものように物を言わずに温かく見守る父がトーヤは嬉しかった。
「寒いな。
そろそろ中へ入るか。」
隣に座っていたカルヤが腰を上げた。
トーヤもそれに倣う。
「うん。」
玄関先の二つある大きな石に並んで腰掛け、なにを言うわけでもなく静かに冬の住宅街を眺める。
ここは家の密集地。
明け方になるとさすがに人が起き出してきた。
カルヤの隣に座る見知らぬ若者をちらりと見て、みなそれぞれの日課を始める。
ぼんやりとそれを見ていると、トーヤにカルヤが尋ねる。
「元気そうだな、辛くないか?」
普段ものをあまり言わない父の声は、朝の清浄な空気に染みていく。
職人の大きな手が彼の膝の上で組まれているのをなんとなく眺めながら、トーヤは答える。
「うん、平気。」
朝の町の微かなざわめきは静かすぎず。
昂ったトーヤの心を落ち着けるにはちょうど良かった。
この何時間かに急に事態が変わりすぎて混乱した心も、ゆっくりと落ち着きを取り戻していく。
「改造でまだ慣れていないところがたくさんあって、時々しんどいけど、平気。」
目は合わせないが、ぼんやりと前を向く息子の瞳に濁りがない。
ひどく大人びた穏やかな笑みを浮かべた子供を見つめて、カルヤはふ、吐息をつく。
「そうか、ならよかった。」
それきり会話は続かない。
滅多に二人だけで会話をすることはなかったからなにを話すればいいのか、迷う。
「…お前、そういえばあの女の子はいいのか?
黒猫と手なんか繋いでいたぞ?」
「…は?」
長いようで短い沈黙のあと、突然の父の言葉はこれだった。
誰が聞いているか分からないこの場所の事情により、名前は伏せてある。
けれどファイでありハルカであるナナセのことを言っているのだと、トーヤはすぐに理解した。
焦るトーヤに、カルヤがとどめの一発をお見舞いする。
「知らないとでも?
お前が家で話すのは、アズキと学校の男友達のことばかりだったのに…あの子が来てからはあの子の話が物凄く増えてな。
それはそういうことだと、俺は踏んでいたのさ。」
自分のことを得意気に話す父親に、恥ずかしくなってどうしてか笑えた。
トーヤはくすりと笑って、するりと口から次の言葉を紡ぐ。
「父さん、俺失恋した。」
トーヤのあっさり過ぎる答えに、カルヤは一瞬目を丸くする。
その父の顔を見て薄く笑った少年は、いい言葉を探す。
「…ちょっと違うかな。
多分俺は、ハルカが好きだった。
今のあの子は、アズキと同じ『好き』だ。」
「そうか。」
「うん。」
あっさりと返されて、トーヤはなぜか安心した。
こういうときに、誰かに説教がましく言われて慰められるのは嫌いだから。
いつものように物を言わずに温かく見守る父がトーヤは嬉しかった。
「寒いな。
そろそろ中へ入るか。」
隣に座っていたカルヤが腰を上げた。
トーヤもそれに倣う。
「うん。」