空色の瞳にキスを。
「なぁ、アズキもあんな格好でパーティーに出るの?」

「あんなに素敵には着こなせないけど、着せてもらうよ。」

アズキの笑顔は心底楽しみだと言っているのも同然の、嬉しそうな笑顔。
幼馴染みが楽しみにしているそのパーティーに向けて、トーヤは自分が全く準備していないことに気付く。

「…俺もパーティーに出るけど、何着ればいいんだろ…。」

「貸しましょうか?」

突然入ってきたその声に、トーヤは後ろを向く。

「リクさん…。」

「良かったらお貸し致しますよ?
よくここには来るので、部屋には割と服を置いているんですよ。」

闇商人の青年は笑顔のまま、胸元に手を置く。

「…ほんと?」

トーヤの口調は驚きすぎて敬語が取れかかっている。

「えぇ、また夕食後にでも私の部屋にご案内いたします。」

トーヤの顔も、アズキに負けじと輝く。

そんな3人を眺めるのをやめた黒髪の少年は、椅子の上に置いていた帽子をひっつかむと廊下とこの部屋を隔てた扉へと向かう。


「…あれ、どこ行くの?」

黒猫の少年に気付いたトーヤが、話を中断してルグィンに声をかける。

「…散歩。」

面倒臭そうに口を開いたルグィンはそう言い残して、部屋を出ていく。
扉を閉めると、魔術のおかげで彼らの話し声は一切聞こえなくなる。

帽子を深く被り直し、扉に背を向けて歩き出す。

ゆっくりと足を進めながら思い出すのは、ちょうど今見たあの姿。

─あの格好は、やめろ。

ばたばたと足音が行き交う中、帽子を押さえる右手で誰に憚るわけでもないのに、顔を隠す。
じわり、頬が染まる感触がして、きつく唇を噛み締める。

─―あれじゃ、俺は身が持たね…。

揺れた金の瞳には微かな熱。

ひとりにこれ程翻弄されるのは、初めてで。

「やべー…。」

戸惑いを抱えながら、人混みの中をどこへ行くでもなく、ただふらふらと足を動かす。

でもここは忙しさの頂点にある年越し前のルイスの屋敷。
しばらくあてもなく歩いていると、後ろから呼び止められた。

「おーい、そこの帽子野郎!
暇なら手伝ってくれー!」

そんな声が後ろから掛かって、黒髪の少年は振り向いた。

ルグィンが顔を見せれば、呼び止めた料理長はたじろぐ。
客人として招いている自分達には用事を言いつけるなと、主人から言われているのだ。

「…あ、ルグィン様でしたか…。申し訳ありませ…」

「いい。
それで、何をすればいい?」

黒髪の少年は帽子で頭を隠したまま、料理長の元へと歩みを向ける。

珍しく素直な口を利くルグィンに、料理長は狼狽えながら感謝を口にする。

「あ、ありがとうございます!
えっとですね…この箱をですね…」

とりあえず今は何かをして気を紛らせることにした。
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