空色の瞳にキスを。
ナコを見透かしたような優しい笑みは、夜の空気に酷く馴染む。


「だってナコ、そんなにずる賢くないもん。

卑怯な手段は許せないから使わないでしょう。」

問いかけだと言うのに、知っていたように口調は確信が含まれていて。

酷く優しい声音で、笑みで。

問われた彼女の言葉に、ナコは気圧されて声を失う。

すぐに気を取り戻して、一言。

「へぇ、あたり。」

よく分かったなと言うようにファイを睨んで少し笑えば、黒髪を揺らして少女も笑った。

親しさのような、穏やかな空気が漂って。


この場所にいるのは一ヶ月前、魔術を向けた人同士だときっと誰も分からない。

闇色の二人は夜の影に包まれて、気配を隠す。
静かな刃を向けたもの同士の密会は、まだ誰にも気付かれず。

「軍官様は?」

「いいとこのお嬢さんとダンス中。
あの人は上流貴族で、軍でもそれなりに偉いから、お嬢さんには狙われてるんだぜ?」

「そう、じゃあしばらく来ないのね。」

軍官に対する敬語が消えていることから、ファイでさえいい印象を抱いていないことをナコは知る。

「俺の上官が悪いことをしたな。」

真っ暗な中、二人でベランダの手すりに寄りかかる。
少女はは空を見て、青年は扉を眺めて、互いに背を向けて言葉を交わす。

「ううん。平気だよ。」

無理した様子がありありと伝わるその明るさを、ナコがばっさり両断する。

「嘘つけ。」

沈黙のあと、ファイは本音を口にした。

「…。

ただ、異形があんなに嫌われるものなんだって、上司にだって嫌がられるんだって、思った。」

瞳を伏せて言う彼女の言葉に、嘘は見当たらなくて。
言葉は足りないくらいに少ないのに、悲しみだけはしっかりと伝わって。

陰りの出来た瞳を隠すように風で黒髪が揺れた。

「あの人は俺がいつもの赤毛の時には、酷いぜ。

毎日変化するには魔力が足りなくて、特別な日くらいしか俺は変化できないからさ、仕事はいつも赤毛なんだよ、俺。
今日は人外な姿を晒してないからいいみたいだけど…。」

なんでもないことのように、ナコは黒髪を掻きながら呟いた。

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