空色の瞳にキスを。
「ナコも、言われるの?」

隣で聞こえた酷く優しい、心配するような声。
心地よさを隠して変わらない調子を装って、声を出す。

「そ。」

「辛く、ない?」

─俺にはそんな声かけてくれる奴、もういない。

ナコにとって、ファイの声音は久しく耳にしていなかったもので。

─あいつはこれを毎日聞いているのか。

そうなら少し羨ましいと、赤目を揺らしてナコは思った。

「もう嫌われるのには慣れた。
だけどあんな風にされるのが嫌で、知り合いともいろんな場所、歩けなくなった。

異形の俺達を作ったのはあいつらなのにな。
造った時は俺らが一番強くて、あいつらが出来たら劣った俺達は要らなくなって。

そうやって、勝手に憎まれて嫌われてするのは、嫌だな。」

ファイはじっと聞いていた。

思わず零れた本音は、彼女の眉を下げさせるくらいの威力はあった。
泣きそうな目、噛み締められた唇。

それに嘘を見付けられなくて、これは演技ではないと確信する。

─良かったな。

─ルグィン、お前の隣がこいつで。

弟分の黒猫の隣にこれがいるとなれば、それは良かったと思えてしまう。

黒い猫と追われる王女の取り合わせはとても滑稽で、それでいて。


―それでいて、ぴったりで。



「スズランは?」

ナコがゆらりと話を変えれば、ファイはゆっくりと付いてくる。

「いつも元気だよ。

お姉さんみたいにあたしたちの世話を焼いてくれるよ。」

「そうか。」

安堵によく似たため息を吐いて、笑う青年。

「会いに行かないの?

たった三人の仲間…でしょ?」

言うのを躊躇うように、言葉尻が小さくなる。

なんともないように、ナコは明かりを見ながら呟く。

「忙しいだろうしな、俺もあいつも。」

「そっか…。」

俯き瞳を伏せた、彼女。

寂しそうに呟く心の奥は、ナコには計り知れなかった。


長い沈黙のあと、黒髪の青年はポツリと言葉を落とした。


「お前、優しいな。」

突然すぎる誉め言葉には目を丸くした少女。

「え…。」


その表情を内心笑いながら、偽の青年は続けた。

「人のこと考えて、あの時も、今も。」


そこで一呼吸。


余韻が消えぬうちに、ナコは言葉にしてしまう。

「お前があいつの隣にいてくれて、良かったよ。」

風に流されていくその低い声が、泣きそうに優しく聞こえて。

いつもはこんなこと言う柄じゃないんだけどな、と苦笑して隣の青年は偽色の髪をがりがりと掻く。

そんなナコの戸惑うような、ぎこちない振る舞いを目の端に捉えて、ファイは手すりに寄りかかって庭に視線を移した。
< 271 / 331 >

この作品をシェア

pagetop