空色の瞳にキスを。
迷いなく飛んできた強い口調に、ナコは一瞬躊躇し頷いた。

「そうだな。」

ナコの低めの声で紡がれた肯定に、ルグィンもファイも瞳を揺らす。


「お前が、こいつの側につくなら。」


分かりにくいけれど、悲しさに一瞬揺らいだ金色を、ファイは見てしまった。

─これは、あたしのせいだよね。

歯を食い縛って俯く。

「こいつの優しさも、正しいか正しくないかは別にして、ちゃんと分かる。

だけど、俺はあの方を信じてる。
こいつが殺したカイ国王が殺されたことで、あとを継ぐことになった、クレイシー陛下を…。」

熱がこもったナコの声に、ファイは名前の記憶を呼び起こす。

─クレイシー、今の国王様。

「そいつ、偽物じゃないか?
フェルノールの手先じゃないよな?」

ひどく冷静なルグィンの声に、呆けたようなナコの声。

「…は?」

「ふざけるなよ!

あの方は、そんな方じゃない!」

ナコの怒鳴り声は静かな空気に吸い込まれて、隔絶された扉に跳ね返される。

誰も、この争いには気付かない。

「俺は王家で一人残されたあの方を、信じるって決めた!
国をよくするためにお前みたいな裏切り者は殺さないといけないんだよ!」

激昂するナコを冷静に見詰めるファイにまた苛立ちを募らせて、怒鳴った。

「覚えておけよ!
今度会った時は、敵なんだからな!」

その台詞は自分自身に言い聞かせているようで、ファイとルグィンにはナコの葛藤が窺えた。

「お前、自分で見たものしか信じないって、言っていたよな。」

「そうだ。俺は昔そう決めた。

でも俺は陛下をちゃん知っている!」

強く言い切ったナコをルグィンはじっと見据えて、静かに言った。

「…そう。
それで後悔しないなら、もう説得はしない。

次は敵として。」

そう言う黒猫の少年は潔く諦めて、ファイは引き留めようにも引き留められる空気じゃなくて、出した手を引っ込める。

「あぁ、お前がこちらに来れば良かったのに。」

ファイはナコの落ち着きかけた声を俯いて聞く。
ぎゅ、と握りしめた黒いドレスはシワを作る。

ルグィンの鼻で笑う声がファイの頭上で聞こえた。

「まさか。
反逆者の元になんか死んでもつかない。」

二人は別れの挨拶を交わして、どちらからともなく右拳をコツンと合わせて、友として最後の笑みを浮かべる。
そしてナコは振り返らずにこのテラスを出ていく。

ばたん、と閉められた扉がナコとの隔絶に聞こえてしまうあたりどうかしている。
力が抜けて、手すりを背もたれに預ける。


ふう、と息を吐いて仰いだ空は、相変わらずの曇り空。

時々吹く強い風も、ファイであるナナセの心を表しているみたいだった。

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