冷たい雨に咲く紅い花【後篇ーside実織ー】
私の知る、
馴染み深くて愛しい甘い香りとは違う、
甘い匂い。
「ミオリ?」
目の前に差し出された綺麗な掌と声が、
私を呼び戻す。
「――あ……、はいどうぞ」
その綺麗な掌に、
お店のロゴ入りワックスペーパーで包んだダークチョコのドーナツを渡すと、
夕綺さんは手首をひねり、ドーナツを色々な角度から眺め、
相変わらずの不機嫌そうな顔のまま、無言でドーナツを口にした。
すると、
ふ、と
夕綺さんの表情が少し柔らかくなった気がした。
その表情を眺める私と目が合うと、
バツが悪そうに、夕綺さんは窓の外に視線を移し、
また、いつもの表情になる。
外を眺め、
無言でドーナツを食べ進める夕綺さん。
私は、それだけで、
なんだか嬉しくなった。