冷たい雨に咲く紅い花【後篇ーside実織ー】

私の知る、
馴染み深くて愛しい甘い香りとは違う、

甘い匂い。




「ミオリ?」

目の前に差し出された綺麗な掌と声が、
私を呼び戻す。


「――あ……、はいどうぞ」

その綺麗な掌に、
お店のロゴ入りワックスペーパーで包んだダークチョコのドーナツを渡すと、
夕綺さんは手首をひねり、ドーナツを色々な角度から眺め、
相変わらずの不機嫌そうな顔のまま、無言でドーナツを口にした。


すると、

ふ、と
夕綺さんの表情が少し柔らかくなった気がした。


その表情を眺める私と目が合うと、
バツが悪そうに、夕綺さんは窓の外に視線を移し、
また、いつもの表情になる。



外を眺め、
無言でドーナツを食べ進める夕綺さん。


私は、それだけで、
なんだか嬉しくなった。




< 89 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop