風の恋歌


 そんなある日、彼と彼女は森に出かけた。
 仲むつまじく、私はそれを見ているだけで幸せな気分になれた。
 私は、それで充分だった。

 二人が、滝が見える湖にたどり着いて談笑しているのを、私は何とはなしに聞いていた。
 ふと、彼は私の方を見たので、どきりとした。

「ああ、また彼女がいる」
「彼女?」

 私は、彼の言葉に耳を済ませた。
 彼はとても穏やかな声で、

「風を運ぶ精霊だ」
「なあに、それ?」

 彼女は、不思議そうに彼を見ているけれど、彼は面白そうに微笑んでいるだけだった。

 彼の言葉に、私は心の臓をつかまれたような気分になった。
 私に心臓なんて無いけれども。

「たまにね、風を感じるんだ。僕の声と一緒に踊ってるんだ」
「あら、貴方の声が気に入ったのかしら」
「たぶんね。彼女があんまり楽しそうだから、僕も嬉しくなる」

 彼女は笑って、

「精霊さんにまで好かれてしまうのね」

 彼もくすくすと笑う。
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