風の恋歌

 私は、呆然とした。
 彼は、私のことに気づいていた。
 あまりのことに、真っ赤になってうつむいてしまう。
 彼には私は見えないけれど。

「それじゃあ、彼女のために歌ってあげなさいよ」
「うん、それもいいね」

 彼女の言葉に、彼は歌い始めた。

 その声はやっぱり暖かくて。
 優しくて、ほかほかしていて。
 ふうわりと、私の心をつかんでいく。

 彼女も嬉しそうに彼を見ているから、私も嬉しくなる。
 彼が楽しそうに歌ってくれるから、私も彼の歌声と戯れる。
 幸せな、ひと時だった。

「ねぇ、滝を見てみたいわ」
「でも、危ないよ」

 彼女の唐突の言葉に、彼は戸惑ったようだった。
 滝はそんなに大きなものじゃないけれど、ここは足場が悪くて、高い。

 でも、彼女は気にしないようで、

「私は見てくるね」
「待って」

 軽い足取りで湖から水が流れ落ちる場所へと駆けていく彼女の、身体が傾いだ。
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