風の恋歌


 私はその日、雨あがりの暖かい日差しの中を駆けていた。
 たまに悪戯心を起こして、木々の間に潜り込んでは水しぶきを落とし、小さな生き物達を驚かせた。

 そのとき、歌が聞こえた。
 どきりとして、思わず飛び上がってしまった。

 この声は……?

 私は駆ける足を緩めた。
 そしてそっと、歌声の主を探そうとした。

 しかしちょうど森の中にいた私。辺りを見回しても、人影など見えなかった。

 私が反応したのにはわけがあった。
 その声が、あの「声」とそっくりだったからだ。

 聞こえてくる、とても暖かい素敵な歌。
 小鳥達さえも、その歌と競うようにさえずっている。

 私はそれがとても心地よくて、その歌と一緒に駆けた。
 そうやって歌声と戯れていると、歌声の主を見つけた。
 それは、茶色い髪を持つ人間だった。

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