風の恋歌


 その歌声を聴いたとき、私は暖かい気持ちになった。
 暖かくて、優しくて、穏やかな歌声。
 だから、その声の持ち主が人間だということに驚いた。
 私はてっきり他の精霊が、たとえば水の精霊が歌っているのだと思ったから。

 驚きながらも、声の主にそっと近づいた。

 倒木に座って、空を見上げながら歌うその人。
 短い髪が、私が近づいたせいでさわさわとざわめく。
 でも、そんなことも気にする様子もなく、その人は歌い続ける。

 私はその声と戯れるように、同じところをぐるぐる回りながら、その人のことを見た。
 人間には、私達と違って二種類いる。
 女というのは、私達にとてもよく似た見た目をしているけれども、男というのは、似ているようで、ちょっと違っていた。
 そしてこの歌声の主は、男だった。

 それにしても、なんて素敵な声を持っているんだろう。
 うっとりと歌声に酔いしれるように、私はたゆたっていた。

 その時、彼と目が合ったと思った。
 どきりとして、木の葉を吹き散らしてしまった。
 彼がふっと吹き出して、
「風が強くなってきたから、帰るかな」
 とつぶやき、立ち上がった。

 帰っていく彼を遠めに見ながら、私は再び空高くい飛翔した。

 それが、私と彼との遭遇だった。

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