親友を好きな彼
「元彼?佐倉の…?」
嶋谷くんの驚き様から、大翔は思った通り、私の話をした事はないんだと分かった。
「うん。二十歳の時から、五年間付き合ってたの」
「そっか…。大翔に他校の彼女がいるのは知ってたけど…。まさか、それが佐倉だなんて、すごい偶然だな」
ようやく嶋谷くんは困った様で、でも小さく笑顔を浮かべた。
「うん。私も驚いた。まさかと思って聞いたけど」
大翔は今どうしてるの?
その言葉が、喉まで出かかる。
だけど、それを聞く勇気はなくて、そして嶋谷くんも、
「あいつ、最後に連絡を取ったのは三ヶ月前だけど、元気にしてるよ」
と、それだけ言って、後は大翔の話は一度も出てこなかった。
仕事が楽しそうだとか、地元とはいえ嶋谷くんは一人暮らしだとか、そういう話は出てきたけれど…。
私はどこか上の空で、それを聞いていたのだった。
そしてその夜、“ある物”を取り出した。
どうしても捨てられなかった大翔との、唯一残っている思い出の品物。
それは、初めてのクリスマスで、プレゼントをしてもらった指輪だ。
まだ学生だった大翔は、そんなにお金があるわけもなく、それでも人気のブランドの指輪をくれたのだった。
ピンク色の石があしらわれた、花がモチーフになっている物。
ゴールドの暖かみある色合いで、付き合っている頃は、いつも左手薬指につけていたのだった。
それも別れてからは、ケースにしまい込んだままだったけれど…。
思わぬ大翔と繋がる人との出会いに、二年ぶりにそれを取り出したのだった。
そして、私は…。
まるであの頃を思い返すかの様に、もう一度指輪をはめたのだった。
右手の薬指に…。