親友を好きな彼


「どうしたの?亜子」

毎日、暇なんてないほど、営業に飛び回る亜子が私を連れ出すなんて、よほどの話があるに違いない。

静まり返った給湯室は、オフィス内とは正反対に落ち着く場所だ。

窓からは街が一望出来、今日は雪が降りそうなくらい、空がどんよりとしている。

その窓を背に亜子は立つと、私に心配そうな目を向けてきた。

「ずっと気になってたのよ。その指輪、どうしたの?」

「えっ!?」

“その指輪”というのはもちろん、大翔から貰った指輪だ。

さすが、亜子は気が付いていたらしい。

それより、それに加えて何か事情があると察する辺り、さすがといった感じだ。

「あ…。これ…?」

『元彼から貰った物なの』と言ってしまえばそれまでなのに、恥ずかしさが先に出て言葉に詰まる。

すると、亜子は鋭く突っ込んできた。

「誰かから、プレゼントされた物でしょ?」

「分かるの!?」

「分かるわよ。見るからに可愛らしい感じだし…」

そっか。

シンプルなファッションリングなら違ったんだろうけど、ピンク色の花がモチーフの指輪じゃ、プレゼントって分かるか…。

亜子に誤魔化しても仕方ない。

私は、嶋谷くんが赴任してきた日に知った大翔との関係を話し、指輪を取り出した事を説明したのだった。

「なるほどね…」

「二年前までは、仕事では指輪は外してたの。でも、別れてる人から貰った物なのに、今の方が外せない…」

「通りで、その頃から由衣を知っているのに、指輪を見た事がないと思ったわ」

亜子は、眉を下げ少し呆れ顔だ。

「友達の結婚報告にモヤモヤしてたのも、案外元彼がまだ心にあるからじゃないの?」

そんな風に言われると、返す言葉もない。

もしかしたら、そうなのかも…。

今まで、必死に仕事で誤魔化していたけれど、大翔との別れは思っている以上に、トラウマになっているらしい。

「私はね由衣、ただ昔を懐かしむだけならいいと思うの」


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