親友を好きな彼
「亜子…?」
「少し心配なのよ。由衣って、思い詰めると何をするか分からないんだもん」
思い詰めるって…。
自分では、そんな自覚はまるでないのに。
「そんな風に見えてる?」
恐る恐る聞くと、亜子はキッパリと首を縦に振った。
「少なくとも、未来に対して煮詰まっている感じ」
そう言われたら、そうかもしれない。
日に日に、あのマンションの階段を上るのが、憂鬱になっている。
殺風景な部屋に帰る事も、いつまた“幸せ報告ハガキ”が来るかを考える事も、何もかもに疲れてしまっているのは事実だ。
何も言えない私に、亜子はチラッと腕時計に目を落とした後、たしなめる様に言った。
「例えどんな事があっても、簡単に流されちゃダメよ?」
「え?」
意味が理解出来ない私に、『時間になっちゃった』と言い残し、亜子は足早にお得意先へと向かった。
流されちゃダメって、何の話?
焦って結婚を考えるなとか、それが言いたいの?
どうしても意味が理解出来ないまま、オフィスに戻ろうとした時、
「あ!いた、佐倉」
嶋谷くんが、給湯室に飛び込んできたのだった。
「ど、どうしたの?何かあった?」
まさか、話を聞かれてないわよね?
動揺する私にはお構いなく、嶋谷くんは機嫌良さそうに話しかけてきた。
「今夜、何も予定ないだろ?」
「今夜?うん。何もないけど…」
「だよな。前にも言ってたし。じゃあさ、今夜一緒に飲みに行かないか?」
飲み!?
「それって嶋谷くんと二人で?」
さらに動揺する私に、嶋谷くんは少しムッとした表情を浮かべた。
「ああ、そのつもりで誘ったんだけど。忘れたのか?今夜、クリスマスイヴだろ?」