親友を好きな彼
「さすがだなぁ。佐倉は仕事が出来るって本当なんだな」
「え~?やめてよ。恥ずかしいから」
“嶋谷くん”が赴任してから…、
3時間。
たったこれだけの時間で、すっかり彼と溶け込んでしまった。
きっと社交的な性格なのだろうと確信出来るくらい、すんなりと距離を縮めてくる。
「課長も評価してたよ。だから、俺がこのデスクにいるわけでさ」
そう言いながら、嶋谷くんは、渡した資料を丁寧に眺めている。
私はというと、すっかり彼のペースに乗せられて返す言葉もない。
得意先の注意するべき情報や、どれくらいの契約があるかなど、嶋谷くんの飲み込みは早く、彼がヘッドハンティングされた理由が分かる。
そんな勢いに、私はすでに圧倒されっぱなしだ。
「あ、佐倉。今日の昼は一緒にしない?」
「え?」
「アポとかあるなら別だけど…」
「ううん。大丈夫…」
突然の誘いに戸惑う私を、嶋谷くんは今日何度も見せた口角を上げる笑みで見つめた。
「じゃあ、決まりな。コミュニケーションのひとつだよ。せっかく一緒に仕事をするんだから」
「うん…」
その笑顔も、少し強引な性格も、そしてフワッと香る匂いも、全てが二年前を思い出させる。
本当に好きだった、心底好きだった大翔を…。
私は嶋谷くんと出会って、気が付いてしまった。
大翔との思い出を、捨てきれていない事に。