親友を好きな彼
「寒い!」
お昼になり、嶋谷くんと二人、ランチの店に向かいながら、思わず首をすくめるほど、冬本番の冷たい風が吹いた。
オフィス街のこの通りは、巨大なビル群に囲まれているせいか、風の吹き込みが激しい。
「そういや、もうすぐクリスマスだよな?佐倉は予定あるのか?」
赤いストールに顔を埋める私とは反対に、嶋谷くんは黒いロングコートを羽織るだけで、寒そうな雰囲気は一切ない。
仕事柄、スーツ着用の私にとって、足元がストッキングだけというのは辛かった。
「予定なんてないわよ。そんな事聞かないでよね」
わざと素っ気なく返事をしながら、また大翔が頭をよぎる。
そういえば、大翔はあれから、どんなクリスマスを過ごしたんだろう。
誰かと一緒だったの?
それとも…?
「佐倉!」
「えっ!?」
我に返る様に嶋谷くんに目を向けると、しかめっつらでこちらを見ている。
「何ボーッとしてるんだよ。この店でいい?」
「え?あ、うん…」
気が付いたら目の前には、カフェの店があった。
アメリカンな空気いっぱいのカフェで、私も何度か利用をした事がある。
軽食を取るにはちょうどいい店だ。
「嶋谷くん、ちょうどいいお店を見つけたね」
そういえば、今日ここに赴任してきたとは思えないほど、迷いなく歩いていた。
「だって俺、元々ここが地元だから」
「ええ!?」
地元って…?
ここで育ったって事よね?
「何でそんなに驚くんだよ」
嶋谷くんは、あからさまに不機嫌な顔つきで店へと入って行く。
その後に遅れまいと、私も小走りでついて行った。
「だって、私もここが地元よ?大学だって…」
「だから?」
通りがよく眺められる窓際の席に着くと、さっきまでとは違う無愛想な顔で私を見る。
何で、そこまで機嫌を悪くするのか分からないけれど、自分でもどこか動揺しているのを感じていた。
「だから…。どこで会っても不思議じゃないのに、今まで出会う事がなくて…」
と、自分で言いながら違和感を感じてしまう。
これじゃ、まるで嶋谷くんとの出会いを、運命の様に言っているみたいに聞こえる。
でも、それは全然違っていた。
私が本当に言いたいのは…。
「まあ、そうだよな。俺も、大学までこっちだったし」
その言葉に、胸が一気に高鳴った。