やさぐれ女の純情
二、三秒後。玉ねぎが収まるべき場所に下りきり、
ようやく痛みから解放された咲樹は、涙目の顔を勢いよく上げ
大きく息を吸った。
「ぶはっ」
清久は、咲樹が一度にたくさんの酸素を取り込もうとした必死の形相に
思わず吹き出すと、
悪いと思ったのか片手で口を押え、真顔を装っている。
そんな清久を、まだ声を出す気になれない咲樹は涙目で睨みつけた。
そして、手にしていたビールの缶を無言で清久に付き返すと、
のどの痛みを無視して、また玉ねぎを口に入れる。
――シャリシャリシャリシャリ――
自分を睨みつけ、こりもせずに口いっぱいの玉ねぎを噛んでいる
咲樹の手からビールを受け取りながら、
もう片方の手で机にこぼしたビールを丁寧に拭きとる。
その作業を終えた清久は、浮いていた腰を下ろした。
そして、缶をしばらく左右に振ったあと、
大きく天井を仰ぎ喉を鳴らして、
ほんの少ししか残っていないビールを飲み干した。