今夜 君をさらいにいく【完】
彼は同じ会社で働く一つ年下の男の子。大学生でうちの会社にアルバイトとして週2.3回ほどきている。
明るく、少々軽い感じの子だが、気取らなく、話しやすい性格なので仕事の悩みや愚痴を言い合えるほどの仲になれた。
その彼が、私の真後ろで笑っている。
「おはよう三条君、今日も混んでるねぇ」
「マジ朝からだるいっすねコレ。でも桜井さんとこうしてくっついていられるからラッキーかな」
体がぴたりと密着している。
こういう状況では仕方がないが、昼の職場の人間とこのようにくっつくのは気が引ける。
茶色く、しっかりセットされた髪の毛からヘアーワックスの香りがした。
「あれ?あんま恥ずかしがらないっすねー。つまんね」
「大人をからかわないの!ほら次の駅だよ!頑張って降りなきゃ」
「・・・大人って一個しか違わないじゃん」
一個しか年が違わなくても、学生と社会人では随分違く感じる。
三条君のような、ふわふわした雰囲気が懐かしい。