今夜 君をさらいにいく【完】
私も学生の頃はあんな感じだった。
何も不安な事などなくて、ただ自分の夢を追いかける。
沢山学んで友達と遊んで。毎日が楽しかった。
前に向き直り、降りる体制を整える。
満員電車は降りるのも一苦労なのだ。
駅から徒歩10分はかからない所にある会社、【アジュール(azure)】は、年間2000億円を売り上げる大手通販会社だ。ここ東京都新宿区に本社を構えて30年になるらしい。
そこの8階で私と三条君はコールセンターの仕事をしている。
時給はそれほど良くなかったが、昼の仕事をしていないと、自分が崩れて行きそうだったから始めた。
二階ほどの高さはある、広々としたエントランス。受付嬢は常に5人ほどいる。
三条君と好きな食べ物の話で盛り上がっているといつの間にかエレベーターの前に着いていた。
5.6人ほど並んでいるエレベーターの前で見慣れたスーツ姿が目に止まった。
光沢のあるチャコールグレーのストライプ生地は高級感を感じさせる。
清潔感のある黒髪だけど前髪は少し長め。でも少しも乱れてはいない。
横を向くと高めの鼻が綺麗な輪郭をより一層美しく引き立てている。
この人がいるだけでその場が引き締まる。