今夜 君をさらいにいく【完】



「あ、黒崎課長だ・・・今日もかっこいいっすね」



三条君が耳元で囁く。



黒崎玲人(くろさきれいじ)27歳、通販事業部YS(コールセンター)課の課長。


多分・・・独身。


冷たく、怒ると鬼のように恐いので一部の人間からは冷酷人間と言われている。笑った顔は見たことない。

真面目で仕事は卒なくこなす。たまに見せるスマートな身のこなしに私はひそかに憧れていた。




エレベーターが開き、一斉に中に入り込む。

満員のエレベーターほど息苦しいものはない。誰一人しゃべらず、物音一つ鳴らない最新型のエレベーターは生唾さえも飲み込めない。ここでお腹なんか鳴ったら死ぬほど恥ずかしいだろう。


なのに・・・



ぐぅううううう・・・




昨夜、遅く帰って来たせいで私は寝坊をしてしまい、朝ごはんを抜いてきた。
よりによって黒崎さんと同じエレベーターの時に鳴ってしまうとは。


周りの人がクスクス笑い出す。隣にいた三条君までも。穴があったら入りたい。


人一人挟んで、斜め前にいた黒崎さんは、笑いもせず何の反応もなかった。


8階に到着し、私と三条君、そして黒崎さんが降りた。

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