今夜 君をさらいにいく【完】
私はヘッドセットをデスクに置いて、藤本さんの元へ向かった。
藤本さんは眉間にしわを寄せて苛立っている様子。
「あのぉ・・・」
私の声に気付くと、目の前に受注応対表を差し出された。
「このお客様クレジットなのに分割回数書かれてないのよ。それからまたクーポンのチェック忘れてる!」
この会社に入って半年は経つというのにまだこうやってミスをちょこちょこ出してしまう。
しかも藤本恵里香に注意されるのも悔しいものだ。なにせ彼女は私と同じ年。
社員と派遣では違いが大きいが、同じ時期に入社している。
なのに、仕事の出来がこんなにも違うものなのか。
確かに彼女は短大を卒業してすぐにこの会社に入り、頭も良い。
そして聞くところによるとお嬢様だそうだ。
そんな恵まれた環境が、羨ましいと妬んでしまう事もある。
「こんなにミスが多いとこっちも困るのよ、他にもやらなきゃない事が山積みだしあなたの尻拭いばかりしてられないの」
そう言い、立ち上がって黒崎さんがいる方に行ってしまった。
2人で何か話している。
藤本さんあたしの事話してるのかな・・・
2人のやり取りに見入っていると、黒崎さんがこちらに気づき、手招きをした。