今夜 君をさらいにいく【完】
間もなく桜井のアパートに到着するだろうという時に、こいつは俺のスーツに吐いた。
心配そうに後ろを振り返る運転手に「大丈夫です」と返し、桜井をなんとかタクシーから降ろした。
秋の夜は上着を脱ぐと少し肌寒い。
とりあえず上着を丸め、桜井をおぶった。
「気持ち悪い~」を繰り返す桜井は意識が朦朧としてて、何を話しかけても無駄なようだった。
古びたアパートの203号室。桜井が酔って間違った事を俺に言っていなければ、きっとここが桜井の部屋なのだろう。
兄弟と二人暮らしだと聞いていたが、妹はいるのだろうか?
インターホンを押すと、しばらくしてからドアが開かれた。
出迎えたのは中学生くらいの少女だった。
俺は驚いた。
妹と言っても、高校は卒業していて、年が近いのだろうと勝手に想像していたから。
なぜ中学生くらいの妹と一緒に住んでいるのか。なぜこの子は実家に住んでいないのか。
疑問だらけだった。
妹は一瞬俺を見て驚き、おぶられてる桜井を見て更に驚いて言った。
「お姉ちゃん!?」
「酔っぱらって眠っているだけだから・・・寝室に運ばせてもらってもいいですか?」
「あ、はい!」