今夜 君をさらいにいく【完】


昔から自分や人の髪の毛をいじるのが大好きで、友達や綾によく色々な髪型をしてあげた。

その度に上手だねと褒められたり、喜ばれたりするのが嬉しくて。

お母さんも喜んでくれてた。


“安奈は立派な美容師になれるね”って。



お母さん。



お母さんが生きてたら、今とは違う人生を歩んでいたのだろうか。


お父さんはギャンブルなんかしないで真面目に働いてくれていたんだろうか。


私は美容師の道を諦める事なんてしなくても良かったんだろうか。




・・・無駄な事を考えるのはよそう。


今はこの目の前にある道をただひたすら走り続けなくてはいけない。




だけど。


私は最近自分が恐かった。



自分自身がこの夜の仕事に溶け込んでいってるということに。

なんのためらいもなしにお店に行ってメイクして客に触られ。

そんなこと一年前ではありえないことだった。

なのにお金が自分を変える。


別に無駄使いしてるわけではない。


自分の物などほとんど買わずに借金の返済や貯金、生活費に消えていくのだけど、稼げば稼ぐほど、指名をもらえばもらえるほど、あの店で働く事に生きがいを感じてしまっている自分がいる。



こんな風に、最近では日々頭の中で葛藤しているのだ。





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