もうひとつの恋
さっきの電話を思い出しながら、どこの母親も自分の子供のこととなると周りが見えなくなるんだなと改めて思った。


『30にもなるのに結婚どころか彼女もいないんじゃねぇ』


寂しそうにそう言って無理して笑う美咲さんの顔が頭に浮かぶ。


美咲さんなんて30どころか四捨五入したら40じゃないか……


そんな風に美咲さんに憎まれ口を叩けないことが、こんなに寂しいなんて思ってもみなかった。


美咲さんはなんで俺を拒んでるんだろう?


こんな風に連絡が取れなくなるなんて、美咲さんと出会ってから初めてのことだった。


このまま会えなくなると思うと、胸が押し潰されるように苦しくなる。


会えない時間だけ、会いたいという気持ちが増していくような気がした。

さとみさんに様子を聞いてみようか?


まさか俺だけじゃなく、さとみさんにまで連絡を取らなくなることはないだろうと思う。


壁にかかっている時計をチラッと見ると、まだ9時を回ったところだった。


この時間ならまだ起きてるだろうと確信して、さとみさんの番号を呼び出す。


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