朱雀の婚姻~俺様帝と溺愛寵妃~
「今の柚に、何を言っても無駄なことは分かった。しかし、これだけは信じてくれ。余が愛しているのは柚だけだ。余が抱きたいと思うのもまた、柚だけだ」


 暁の言葉に、柚の気持ちは大きく揺れた。


しかし、返す言葉が見つからない。


愛していると言われたからとて、先程見た光景を忘れることはできないからだ。


 柚から何の返事もないので、暁はため息を一つ零した。


「柚が余に会いたくない気持ちは分かった。今夜はもう帰ろう。柚を傷つけてしまったこと、大変申し訳なく思っておる」


「…………」


「おやすみ、柚」


 最後の一言は、とても優しい声だった。


そして、とても悲しそうな声でもあった。


 暁が本当に帰ったことを気配で感じ、柚はその場にへなへなと崩れ落ちた。


 暁が、裸の昇香とキスしている画が脳裏に焼き付いて離れない。


けれど、先程の暁の愛しているという声も耳から離れない。


どうしたらいいのか分からなくて、苦しくて、柚は頭を抱えて座り込んだ。


「なんでなんだよ、暁……」


 柚の声は、誰もいなくなった渡殿に、儚く消えていった。

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