Trick or Treat!
人気のない公園のベンチで手を握りあう男女。そこには甘い空気が……あるわけもなくっ!いや山崎君が一方的にフェロモン出していますけど。枯れ子(子、っつーか枯れ女だな)な私にはいまいちそれは効かず…。
「えっ!!いきなりそこっ!?」
「だって俺、すぐにでもあなたの子供欲しいもん。あなたと芽依ちゃんと俺の子供で幸せな家庭を築きたいからさ。本気だよ?俺。ずっとあなたのことを見ていたんだから。あなたが好きです。結婚してください。」
『もんっ』てっ!!30過ぎの男がそれ言って、似合うのも犯罪もんだよっ!!しかも口調が変わっているしっ!
「だから、俺を見て…?」
ゆっくりと近づく懇願するような表情を浮かべる顔。うわー。本当に綺麗な顔…。
「キス…したい……。」
その言葉に思わず体に戦慄が走った。そしてその瞬間分かったんだ。私は私自身を求めて欲しかったんだ。芽依の母とか、家政婦みたいな立場とかそういうのだけじゃなくて、私自身を。
あと少し、という所で止まっていた彼の唇。彼の呼吸が私に当たる距離でじっと待っている。目は薄く開き、それが少し不安げで色っぽい表情になっている。
私は自分のそれを重ねていた。柔らかな感触をかすめるように唇を動かす。
ちょっとくっついて離れてまたくっついて…。
最後にキスしたのはいつだろう。ああ、芽依が生まれてすぐだったかも。あの後の彼とのセックスはキスもしないフェラチオスタート、ちょっと挿入で手扱きエンドという愛もへったくれも感じないものだったことを思い出した。それセックスじゃないっしょ!あんまりなそれで私は感じることが出来なかったのに、夫からは出産でガバガバになった上の不感症かよ、と言い放たれたんだ。
だけど今私が受けているそれは全身が震えるほどの欲情を感じていて……。
「ん…ふ……ンン……。」
私の吐息かと思ったら、それには彼のも重なっていた。少し低めのベルベットボイス。ゆっくりと唇を堪能され、そのまま深くなってしまっていく…。まさに溺れるという感覚だ…。ほんのり残ったアルコールごと絡め取られるような執拗なくちづけ。
彼の腕が私を抱きしめ、頭を固定する。水音が出るほど激しいキスを繰り返す。キスだけなのに全身で愛情を表現してくれているような感覚に陥る。
「好きです。七海さん…。俺を愛してください…。」
でもね…
「やっぱりだめだよ…。」
その唇の優しい感触に思わぬ名残惜しさを残しつつ、彼の胸に手を置いてゆっくりと離れる。その手首を彼がぎゅっと握る。なんて淋しそうな表情をしているのよ。苦笑いが私の口から漏れる。
「なんで?」
「もうあんな思いはしたくないの。確かに生活もそんなに楽じゃないけど、芽衣と一緒にいて充分幸せなの。」
「そんな…。俺は…っ!」
「私が離婚して一番に感じたのは解放感なのよ。今人に縛られるのは真っ平ごめんだわ。」
ごめんね。
ゆっくりと立ち上がると山崎君はぎゅっと抱きしめてきた。
「俺、諦めたくない。諦められない。」
「…ごめん。」
もう一度腕に力を入れると今度はすんなりと離してくれた。途端に感じるには肌寒さ。彼の体温が私を暖めてくれていたんだと実感する。素敵な年下君。ポールスミスのスーツがよく似合ってます。
「貴方は貴方にふさわしい相手を見つけるべきだわ。そしてその相手は私じゃないの。」
そのまま踵を返して駅へと向かう。彼は追いかけてこない。最後にどんな表情をしていたかも分からないけど、それでいいと思う。でもちょっと惜しかったなぁ(苦笑)。
帰宅した団地の一室は冷んやりとしていて、そこにはいつもいるべき存在がいない事を思い出す。お風呂に入って一人二次会をちょっとだけやる。いつもは一緒に笑って観ているバラエティもなんだか味気なくて、暫くして諦めたように布団に入った。離婚してからは寝るときはいつも一緒の芽依が今日はいない。彼女は今日に限らず時折恭君家や元夫の家にも泊まる。だから別にそういう日は珍しくない。
なのに……
芽衣の匂いに包まれていたらなんだか涙が流れてきて、私はいつまでもそれを止める事が出来ないでいた。
「えっ!!いきなりそこっ!?」
「だって俺、すぐにでもあなたの子供欲しいもん。あなたと芽依ちゃんと俺の子供で幸せな家庭を築きたいからさ。本気だよ?俺。ずっとあなたのことを見ていたんだから。あなたが好きです。結婚してください。」
『もんっ』てっ!!30過ぎの男がそれ言って、似合うのも犯罪もんだよっ!!しかも口調が変わっているしっ!
「だから、俺を見て…?」
ゆっくりと近づく懇願するような表情を浮かべる顔。うわー。本当に綺麗な顔…。
「キス…したい……。」
その言葉に思わず体に戦慄が走った。そしてその瞬間分かったんだ。私は私自身を求めて欲しかったんだ。芽依の母とか、家政婦みたいな立場とかそういうのだけじゃなくて、私自身を。
あと少し、という所で止まっていた彼の唇。彼の呼吸が私に当たる距離でじっと待っている。目は薄く開き、それが少し不安げで色っぽい表情になっている。
私は自分のそれを重ねていた。柔らかな感触をかすめるように唇を動かす。
ちょっとくっついて離れてまたくっついて…。
最後にキスしたのはいつだろう。ああ、芽依が生まれてすぐだったかも。あの後の彼とのセックスはキスもしないフェラチオスタート、ちょっと挿入で手扱きエンドという愛もへったくれも感じないものだったことを思い出した。それセックスじゃないっしょ!あんまりなそれで私は感じることが出来なかったのに、夫からは出産でガバガバになった上の不感症かよ、と言い放たれたんだ。
だけど今私が受けているそれは全身が震えるほどの欲情を感じていて……。
「ん…ふ……ンン……。」
私の吐息かと思ったら、それには彼のも重なっていた。少し低めのベルベットボイス。ゆっくりと唇を堪能され、そのまま深くなってしまっていく…。まさに溺れるという感覚だ…。ほんのり残ったアルコールごと絡め取られるような執拗なくちづけ。
彼の腕が私を抱きしめ、頭を固定する。水音が出るほど激しいキスを繰り返す。キスだけなのに全身で愛情を表現してくれているような感覚に陥る。
「好きです。七海さん…。俺を愛してください…。」
でもね…
「やっぱりだめだよ…。」
その唇の優しい感触に思わぬ名残惜しさを残しつつ、彼の胸に手を置いてゆっくりと離れる。その手首を彼がぎゅっと握る。なんて淋しそうな表情をしているのよ。苦笑いが私の口から漏れる。
「なんで?」
「もうあんな思いはしたくないの。確かに生活もそんなに楽じゃないけど、芽衣と一緒にいて充分幸せなの。」
「そんな…。俺は…っ!」
「私が離婚して一番に感じたのは解放感なのよ。今人に縛られるのは真っ平ごめんだわ。」
ごめんね。
ゆっくりと立ち上がると山崎君はぎゅっと抱きしめてきた。
「俺、諦めたくない。諦められない。」
「…ごめん。」
もう一度腕に力を入れると今度はすんなりと離してくれた。途端に感じるには肌寒さ。彼の体温が私を暖めてくれていたんだと実感する。素敵な年下君。ポールスミスのスーツがよく似合ってます。
「貴方は貴方にふさわしい相手を見つけるべきだわ。そしてその相手は私じゃないの。」
そのまま踵を返して駅へと向かう。彼は追いかけてこない。最後にどんな表情をしていたかも分からないけど、それでいいと思う。でもちょっと惜しかったなぁ(苦笑)。
帰宅した団地の一室は冷んやりとしていて、そこにはいつもいるべき存在がいない事を思い出す。お風呂に入って一人二次会をちょっとだけやる。いつもは一緒に笑って観ているバラエティもなんだか味気なくて、暫くして諦めたように布団に入った。離婚してからは寝るときはいつも一緒の芽依が今日はいない。彼女は今日に限らず時折恭君家や元夫の家にも泊まる。だから別にそういう日は珍しくない。
なのに……
芽衣の匂いに包まれていたらなんだか涙が流れてきて、私はいつまでもそれを止める事が出来ないでいた。