重なる身体と歪んだ恋情
「ダンスは、踊れますよね」

「えっ? あ、はい」


ダンスは父に教えてもらったから。

といっても昔の話で、


「で、でも、人前で踊るなんて――」

「私がリードします。行きましょう」

「あ」


手から奪われるグラスはボーイのお盆の上に。

私のダンスなんて人に見せれるようなものではない。

きっと奏さんはまた私に失望するだろう。

だから戻りたくないのに。

音楽が変わる。

軽快な旋律から滑らかなワルツに。

ホールに居る男女が向かい合って手を取り合って体を寄せて、揺れる。


「手を」


私の前にも差し出される手。

ここまできて「出来ません」は通らないから。

そっと彼の手に私の手を重ねる。


「――っ」


ぐっと引き寄せられる腰、身体が彼に引き寄せられて。


「そのドレスは少し君には地味だったね。次はもう少し明るい色を」


耳元で囁かれる声に背筋がゾクリとした。
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