重なる身体と歪んだ恋情
カツン。
音を立てて私に近づいてくる八重さん。
「いいわね、お人形だとしても彼に大切にされて」
如月から私に向けられる視線はとても冷たくて。
「いえ、大切にされてるのかしら? 彼はモノを大事に扱うことが出来ないもの。こんな華奢な体で大丈夫なの?」
言ってる意味が、分らない。
何も返すことの出来ない私に八重さんは少し驚いた表情を見せて、それから「あら、そう言うことなの?」と声を上げて笑い始めた。
「失礼ですよ、八重様」
如月の声にフッと漏れる声が聞こえた。
「失礼? 本当に失礼なのは誰かしらね」
「……」
八重さんの台詞に如月は目を細めて彼女を睨んだけれど、彼女は気にすることなくまた一歩私に歩み寄った。
「教えてあげましょうか?」
「えっ?」
聞き返す私に彼女は真っ赤な唇でニヤリと笑った。
「彼が大切にしてるのはね、新橋の葛城――」
「八重様っ!」
どうしていいか分らない私の前に如月の腕が伸ばされる。
「千紗様は急用がありますのでこれにて。行きましょう」
「え? あ――」
そのまま腕を掴まれて八重さんとは別れてしまった。