重なる身体と歪んだ恋情
ふと、目が覚めた。

時計を見ればまだ4時半。

この時間に目が覚めるのはもはや習慣か。

そばには寄り添うように郁が眠っていて。

きっと看病をしてくれたのだろうが、このままでは郁まで風邪を引く。


「郁」


体を起こして郁の身体をゆする。


「郁、起きろ。風邪を引くぞ?」

「ん……、あ、兄さん」


まだ眠いのだろう。

目を擦りながら私を見て、「ダメだよ!」なんて。


「まだ寝てないと。本当に昨日はすごい熱で」

「あぁ、すまなかった。でももう――」


大丈夫。

そういいかけた私の額に手を置いて郁は険しい表情を。


「まだだよ、兄さん」

「そういうわけには」

「千紗様に移したらどうするの?」

「……」


なるほど。

そういわれては私も言い返すことが出来ない。

そんな私に郁はニコリと笑って。


「今日は一日お休みだね。僕が兄さんの看病をするから」

「それはダメだ」

「え?」


頭に浮かんだのは彼女のこと。

彼女にとってあの屋敷で心許せる人間は少ない。

だから、


「郁、お前は行くんだ。あと小雪に手紙を書くからそれを届けてくれ。それと――」


自分の身体だ。

今の状態はちゃんと把握してる。

大丈夫。


「千紗様に明日は必ず行きますとお伝えするように」


そういうと郁は少し心配そうな顔をして、


「はい、分かりました」


それでも頷いてくれた。
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