重なる身体と歪んだ恋情
階段を上がり彼女の部屋の前へ。


「千紗様、おはようございます」


ノックをして愛圧をすれば微かに聞こえる衣擦れの音。

だけど返事はまだだから。


「千紗様」


もう一度ノックを。すると、


「……ん、おはよう、如月」


寝起きでかすれた彼女の声がやっと聞こえてきた。


「って大丈夫なの!? ――きゃあ!」


と思ったら悲鳴と何やや重たいものが落ちる音が響いて。


「千紗様!?」


緊急事態と思い部屋の中に。


「痛ぁ……」

「……」


見れば見事にベッドから落ちた千紗様の姿に開いた口が、ではなく絶句。

ため息のひとつも付きたいところだが、


「あ、それでもう大丈夫なの? 熱は!?」


すぐさま体を起こして打ったのであろう肘をさすりながら見上げてくる彼女を呆れることも出来ず、


「もう大丈夫です。ご心配おかけしました」


とりあえず彼女の心遣いに感謝の意を込めてお辞儀を。そして、


「また緊急事態と思い部屋に勝手に入り申し訳ありません。小雪、お着替えを」


後ろに控えている小雪にそういえば千紗様は一瞬きょとんとなされて、


「――きゃあ!」


やっと自分の姿に気付いたのか、ネグリジェ姿の自分の身体に毛布を巻きつけて悲鳴を上げた。

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